「厚田に育ててもらった」思いを胸に、地域のこれからを考える―集落支援員 八木沼幸恵さんインタビュー

ひと

石狩市厚田で集落支援員として活動する八木沼幸恵さん。
「やぎゆき」の愛称で地域の方々から親しまれ、厚田地区の課題解決や交流の場づくりに取り組んでいます。

「厚田に育ててもらった」という思いを胸に、子どもから高齢者まで誰もが暮らし続けられる地域を目指して活動している八木沼さん。これまでの歩みや現在取り組んでいる活動、これからの厚田について伺いました。

<八木沼幸恵さんプロフィール>
厚田出身。2022年より厚田集落支援員として活動。
「畑で会いましょう」や子どもの居場所づくり「あつみん」など、地域のつながりを育む活動に取り組んでいる。Instagram:@atukura.yagiyuki

厚田で生まれ育った幼少期。そして、再び厚田へ

八木沼さんの両親は、厚田の望来(もうらい)で農業を営んでいます。
幼少期は同級生が10人ほどという環境で育ち、保育園から中学校卒業までほぼ同じメンバーと過ごしました。

高校は、厚田から札幌市内の高校へバスと地下鉄を乗り継ぎ、毎日2時間近くかけて通学していました。その後江別市の大学へ進学し、一人暮らしも経験。大学卒業後は、札幌で就職をしました。

第一子が生後半年になった頃、元夫が「農業をやりたい」と言ったことをきっかけに、再び厚田で暮らすことになった八木沼さん。

実家で6年ほど農業に従事したあと、厚田にある特別養護老人ホームで通訳や事務の仕事に携わるようになりました。

施設で2年ほど働いた頃、厚田で集落支援員の募集があると知り、応募したといいます。

「厚田をなくしたくない」そんな思いから始まった集落支援員

集落支援員とは、総務省が推進する制度のひとつ。

地域外から移住して地域づくりを行う地域おこし協力隊とは異なり、もともと地域に暮らす人が、その地域の状況を把握しながら課題解決に取り組む役割を担っています。

「このまま何もしなければ、厚田がなくなってしまうかもしれない」

そう漠然と感じていた八木沼さんは、自分にできることを考え、NPOの立ち上げについて調べていた時期もあったといいます。

そんなタイミングで集落支援員の話をもらい、「自分でやるか、制度に乗ってやるかの違いなら、制度を使ってやってみよう」と思い活動を始めました。

地域の声を聞き、つながりの場をつくった1年目

集落支援員として活動を始めた八木沼さんがまず取り組んだのは、地域の現状を知ることでした。

移動手段の問題や子どもの減少、空き家の増加など、厚田にはさまざまな課題があると感じていた八木沼さん。特に高齢者は、生活の中で困りごとを抱えているのではないかと考え、地域の方々へ直接話を聞いて回りました。

しかし、実際に話を聞いてみると「困っていない」「今はどうにかなっている」という声が多かったといいます。

困りごとの解決だけでなく、地域のつながりを大切にすることも必要だと感じた八木沼さん。

そこで始めたのが、以前働いていた介護施設と地域の高齢者クラブをつなぐ「畑で会いましょう」という活動です。

介護施設の敷地内に畑をつくり、野菜づくりの知識や経験を持つ地域の高齢者クラブの方々に協力してもらいながら、利用者と一緒に野菜づくりに取り組んでいます。

施設利用者にとっては、土に触れたり野菜の成長を感じたりすることがよい刺激となり、地域の人との交流の場にもなっています。

子どもの居場所「あつみん」を立ち上げ

次に、子育て世帯への聞き取りを実施。約2か月かけて40軒ほどの家庭を一軒一軒訪ね、困りごとを聞いたところ、最も多かった声は「公園が欲しい」、次いで「子どもが遊べるところが欲しい」というものでした。

厚田には、もともと3つの小学校がありました。2019年に望来小学校と厚田小学校が統合。さらに翌2020年には、聚富(しっぷ)小学校や中学校も加わる形で、小中一貫校「石狩市立厚田学園」が開校しました。

それまでは校庭の遊具などで遊ぶことができた子どもたち。しかし、学校の統合後は廃校となった学校の遊具は管理が難しくなり、子どもたちが自由に遊べる場所はどんどん減っていきました。

また、厚田は南北に長い地形で、地域の端と端では距離も大きく離れています。子どもたちはスクールバスで通学しているため、放課後にそのまま学校に残って遊ぶことができません。帰宅後も、親の送迎がなければ気軽に遊びに出かけることが難しくなりました。

そこで、「公園を作るのは難しいけれど、遊べる場所ならどうにかできそう」と八木沼さんが始めたのが「あつみん」と呼ばれる、子どもたちが自由に遊べる場所づくりです。

現在は、石狩市役所厚田支所の2階で月に4回ほど開催されています。全校児童約30人のうち、半数近くの小学生が利用するなど、学童保育がない厚田において子どもたちの放課後の居場所となっています。

交通や子育て支援―暮らしの中で見えてきた地域の課題

厚田ではスーパーやドラッグストア、歯科医院などがなく、買い物や通院には市街地までいく必要があります。

しかし、2026年3月に厚田から都市部へ移動する路線バスが廃止され、車を持たない世帯はさらに移動が困難に。

NPOによる「過疎地有償運送事業」という送迎サービスもありますが、ドライバーの高齢化が進み、担い手不足などの課題もあります。

「いつモ」や「浜厚線」などのデマンド交通サービスも運行しているものの、完全予約制であることや、路線バスへの乗り継ぎの難しさなどが利用者にとってのハードルになっています。

かつての八木沼さんのように、中学卒業後は厚田から市外の高校に通う子どもたちもいます。利用の予約を忘れてしまうとバスに乗れなくなってしまうため、親が送迎をすることになったケースもあるといいます。

制度はあるのに厚田では使えない…自ら資格を取得し「ファミサポ」のサポート会員に

さらに、交通の不便さは子育て世帯にも影響が出ています。

石狩市では、妊娠中の方や0歳のお子さんがいる家庭を対象に、ファミリーサポートを40時間無料で利用できる「石狩市子育てサポート事業」を実施しています。

もちろん厚田でもこのサービス自体はありますが、厚田市内の家庭まで向かえるサポート会員はおらず、実質利用ができない状況だったそうです。

その実情を知った八木沼さんは、自らサポート会員養成講座を受講。現在はサポート会員としても活動しています。

これからの厚田に必要なのは「誰がやっても続けられる仕組みづくり」

一度厚田を離れて暮らしたからこそ、気づいたことがあるという八木沼さん。

「田舎では一人の人が何役も担うことが普通だったんです。でも札幌に出て、それが当たり前じゃないんだと知りました」

八木沼さんがいま必要だと感じているのは、地域全体で仕組みを見直すこと。

「田舎にはキーパーソンがいて、その人がいるからできていることがある。でも、もしその人がいなくなってしまったら続けられなくなる。だから、特定の誰かに頼るのではなく、誰がやっても続けられる仕組みを作れたらいいなと思っています」

人口減少が進む中、昔と同じ役割分担のままでいいのか―

「これは本当に必要なのか。絶対に譲れないことは何か。地域全体で一度棚卸しをする必要があると思っています」

また、行政の制度や補助金などの情報が地域に届いていないことも課題だと感じているといいます。

「たとえば、エアコンを買う際に補助金がもらえるのですが、書類を見ても難しくて…それが、わかりやすくなると助かるのかなと感じています」

2022年には「あつクラ大作戦」を始動。市役所の各担当者や地域の方々が集まって、厚田の課題について話し合いました。
※「あつクラ」とは、「厚田の暮らしを支援する」という意味を込めた「あつたクラシエン」の愛称です。

すべては社会教育につながる…厚田の未来のため“種まき”は続く

大学時代に社会教育を学び、2023年には社会教育士の資格も取得した八木沼さん。社会教育とは、学校の教育以外の学びを指します。

八木沼さんがこれまで行ってきた「畑で会いましょう」や「あつみん」も、社会教育につながっているといいます。

「後から振り返ったときに、あのとき体験したことが、こういうふうに生きるんだなと思えるような、そんな種まきができればいいなと思っています」

集落支援員として活動を始めて今年で5年目。

八木沼さんが厚田にまいた種は、少しずつこの地域に根づいています。